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チューリヒ-人工知能(AI)を活用したイノベーションの中心地

スイスはなぜAIの中心地なのか

スイスの都市チューリヒは、AI分野におけるイノベーションの拠点として急速に台頭しています。世界を牽引する研究と国際的な企業が交わる、活気あふれる中心地です。最先端の大学群、優れた人材層、安定しかつ技術革新に適した環境が融合し、チューリヒはAIの未来を牽引しています。

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チューリヒ、スイス

急速に進化を遂げるAIの世界で、チューリヒは最も活気に満ちた国際拠点のひとつとしての地位を確立しています。スイスという国自体も、長年にわたって精密さと革新性で高い評価を得ています。世界知的所有権機関(WIPO)発表の 「グローバル・イノベーション・インデックス (Global Innovation Index)」で2011年以来スイスが首位を維持しています。さらに、人口比で見るとスイスは世界でも有数のユニコーン企業創出国です。また欧州特許庁(EPO)発表の「特許インデックス2023」によると、特許出願件数(人口100万人あたり)でも欧州第一位です。これらの実績が、スイスにおける技術革新の勢いを物語っています。その推進力の中心を占めるのが、グレーター・チューリヒ地域です。ここには世界有数の研究機関、革新的なスタートアップ、そして成長を続ける国際的なAIラボが集積しています。

1.学術的卓越性が生むイノベーション

AI分野におけるチューリヒの強みは、何よりもその学術基盤にあります。スイス連邦工科大学チューリヒ(ETH Zurich)、チューリヒ大学(UZH) 、ダル・モレ人工知能研究所(IDSIA) 、チューリヒ応用科学大学 (ZHAW)など、世界的な大学・研究機関がAIの基礎理論から機械学習、ロボティクス応用まで多岐にわたる分野で先端研究を進めています。

スイス連邦工科大学チューリヒ(ETH Zurich) は、 dealroom.co発表の「ヨーロッパ・ディープテック・レポート(European Deep Tech Report) 2023」ではAI研究と特許数で欧州第1位に選ばれ、 Quacquarelli Symonds 発表の「QS世界大学ランキング (QS World University Ranking )」データサイエンス・人工知能分野では世界第7位を誇ります。同大学内のAI センター(ETH AI Center)は、Meta、Google、Magic Leap、IBMといった世界的企業と連携し、信頼できる包摂的なAIの開発を推進しています。

グレーター・チューリヒ以外のスイスの都市に位置する他の研究機関も、画期的な貢献を果たしています。ルガーノにあるダル・モレ人工知能研究所(IDSIA)は、AI研究の先駆的センターのひとつであり、DeepMind が生まれた場所でもあります。後に Google に買収された技術の多くはここで開発されました。一方、マルティニーのIdiap研究所は Torch ライブラリを開発しました。これが、現在最も広く利用されている機械学習フレームワークである PyTorch へと進化したのです。

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2.世界規模の巨大テック企業が集まる都市、チューリヒ

チューリヒは学術界だけでなく、世界の大手AI企業をも惹きつけています。世界トップ10のAI企業のうち7社 ‐Microsoft、Alphabet、NVIDIA、Meta、IBM、Adobe、Palantir‐がチューリヒに拠点を構えています。強力な技術革新力と豊富な人材を備えた活気溢れる AI クラスターが形成されています。

Googleは米国外で最大の研究拠点をチューリヒに置き、5,000人以上の社員がMaps、Search、YouTube、サイバーセキュリティなどのAI開発に携わっています。IBMのチューリヒ研究所は、アメリカ国外初の研究所として1956年に設立されて以来、ABBなど産業界と連携しながらAI研究をリードしてきました。さらに、AppleのZurich Vision Lab、DisneyResearch|Studios、Sony AI、Microsoft のMixed Reality & AI Lab、そしてOpenAIやAnthropicといった新興企業も進出し、チューリヒの国際的存在感を一層高めています。

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アルプス・スーパーコンピューター © スイス国立スーパーコンピューティングセンター(CSCS) 

3.スーパーコンピューティング、国家規模のAI戦略、規制の枠組み

スイスのAI発展を支えるもう一つの柱が、先進的で技術革新に適し、かつ透明性の高い規制制度です。これにより、AI企業は高い法的確実性のもとで事業を展開することが可能です。スイスの研究機関および大学に所属する70名以上の教授陣が連携する「Swiss AI Initiative」は、世界有数のAI研究インフラストラクチャーのひとつであるアルプス・スーパーコンピューターを活用し、産業別AIモデルの開発や、大規模言語モデルの倫理・安全性、人間とAIの相互作用の研究を行っています。スイスの研究機関や大学、そしてスイス国立スーパーコンピューティングセンター(CSCS)  が共同で開発したこのモデルは、オープンソースかつ多言語(1,000以上の言語)対応で、透明性、包括性、デジタル主権を重視して構築されています。このインフラにより、スイス国内外の研究者にこれまでにない計算能力が提供され、AI研究・開発の新たな道を切り拓くとともに、責任あるAIの国際的基準の確立にも寄与します。

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© ETH AI Generated Image

4.信頼と安定のビジネス環境

スイスの政治的・経済的安定、強力な知的財産保護or IP保護?(IP protection[KK1] ) 、現実的かつ技術中立的な規制は、多くの企業がAI関連事業の拠点としてスイスを選ぶ大きな理由となっています。欧州基準に整合しつつも、技術革新を促進する柔軟性を備えた明確で透明性の高い法制度により、AI企業は高い法的確実性と低いリスクが約束された環境で活動することができます。さらに、チューリヒの協働的なテック・エコシステムと欧州市場への迅速なアクセスが、製品開発から商業化までの速度を一層加速させています。

 [KK1]Does IP protection mean 知的財産保護 or IP保護 in this context? Any thoughts on this?

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Global Talent Competitiveness Index 2023 by INSEAD

5.人材の集積と生活の質

チューリヒの最大の強みのひとつは人材です。 Tortoise Media発表の2023年「グローバルAIインデックス(Global AI Index)では、この地域は、AI人材の密度で欧州第2位、AI総合力(人口比でのAI能力)では第3位に位置しています。またスイス全体としても、INSEAD発表の「国際人材競争力指数」で10年以上にわたり首位を維持しています。この高度な専門人材の集積に加え、スイスの高い生活の質と優れた労働環境が、世界中から優秀な人材を惹きつけ定着させるだけでなく、国内で高度なスキルを持つ人材を継続的に育成する基盤を支えています。これにより、チューリヒはAIイノベーションの中心地として発展しています。

革新的なアルゴリズムの誕生から、世界的テック企業の技術的飛躍を支える存在へ――チューリヒは「研究拠点」から、スイスのAI分野での卓越性を支える「原動力」 へと進化を遂げました。世界水準の研究力、活発なスタートアップ・エコシステム、成長する産業、経験豊富な人材層、そして実践的な管理体制という独自の組み合わせにより、チューリヒは今、世界のAIの未来に影響を与える都市として、日本のメディアからも大きな注目を集めています。

出典

 本記事は以下の資料に基づいて執筆されています: