生態系に声を マーカス・メーダー@ Art - YOSHINO 20 ART FESTIVAL - Context of MIND TRAIL –
サステナビリティ×アート・イノベーション・伝統:マーカス・メーダーの「Forest Voices(フォレスト・ヴォイス)」、金峯山寺で展示
生態系に声を与える:アーティストであり研究者でもあるマーカス・メーダーは、奈良の森との関わりから、新たなアート作品を発表しました。この作品は、奈良県吉野大峯の世界遺産登録20周年を祝う「YOSHINO 20 ART FESTIVAL - Context of MIND TRAIL -」のプログラムのひとつとして、スイスと日本との国交樹立160周年を祝うスイス・バイタリティ・デイズと共同で制作されたものです。
2023年、マーカス・メーダー(PhD、 ETHチューリヒ)は、奈良の森の木々にセンサーを設置し、地元の生態系の健康状態を測定。彼の新作「Forest Voices」は、このデータと森林地域のコミュニティの人々の音声を組み合わせ、気候変動についての知識を身近な形で伝え、没入型の体験を提供する取り組みです。
修験道寺院という特別で荘厳な環境の中、生物多様性についての緊急な対話の必要性を強調する本プロジェクト。10月12日に開催されたYOSHINO 20 ART FESTIVALの開会式では、メーダーは金峯山寺の住職やフェスティバルのプロデューサーでありVitality.Swissアンバサダーでもある齋藤精一氏からの温かな歓迎を受けました。齋藤氏も自身の作品「JIKU」で本フェスティバルに参加しています。
また、メーダーのインスタレーション「Growth Model」も同時に展示されており、来場者は木々が成長する音を聴くことができます。静かにたたずむスイスの森のレジリエンスを、魅力的なサウンドアートの体験へと変換する作品です。
YOSHINO 20 ART FESTIVAL - Context of MIND TRAIL -
会場:奈良県 吉野町 吉野山
詳細:- Art -YOSHINO 20 ART FESTIVAL - Context of MIND TRAIL -
主催:吉野町、一般社団法人吉野ビジターズビューロー
共催:吉野大峯世界遺 産登録20周年記念事業協議会
後援:在日スイス大使館・協力:スイス大使館科学技術部
Forest Voices
会場:金峯山寺
私は、森林の住民や林業従事者など、森に住み働く人々が樹木と同じように声を与えられ、芸術作品やサウンドインスタレーションの一部となることを望んでいる。インスタレーションには、拡張された森林の音風景を再現し、展示空間の壁に投影する3台の超音波スピーカーが使われている。生物多様性や微気候データはフルートの音として音響化され、再現される。下市の森にある3つの測定ステーションから収集した微気候データが、ロブキ(ロ吹き)瞑想中に演奏・録音された尺八の音色や音高をコントロールする。この音響に加えて、私が下市の村人たちと交わした、彼らの森林や自然との関係についての会話の抜粋が使用されている。
Growth Model
サウンドインスタレーション、マルクス・メーダー、2022年
TreeNet研究観察ネットワーク(1)は2011年からスイスの森林の健全性に関するデータを継続的に収集しています。自動化されたセンサーのネットワークにより、61ヶ所で420を超える樹木を観察しています。TreeNetの目的は、樹木の成長とその水動力学に関する高度な時間分解能を備えたデータセットを研究目的のために作ること、そして森林が成長する様子や乾燥ストレスにいかに対処しているかといったリアルタイムに近い指標を広く一般の人たちに提供することにあります。このネットワークはスイス連邦森林・雪氷・景観研究所(WSL)、スイス連邦工科大学チューリヒ(ETHチューリヒ)、応用植物生物学研究所、バーゼル大学とのパートナーシップの下で運営され、スイス連邦環境局(FOEN)の資金提供を受けています。
先ごろ発表された研究によると(2) (3)、TreeNetによって樹木の成長動態が初めて詳細に観察され、驚くべき発見がありました。樹木は地面から吸い上げた水で導管や細胞を満たし、細胞内の膨圧が十分高くなっている夜間に主に成長するというのです。樹木の種によって成長率が変わり、一年のどの期間に成長するかも違います。スイスでは、気候変動によって干ばつが増加していることも樹木の成長に影響を与えています。
このインスタレーション「Growth Model」では8本の樹木を選んでその2018年の成長期間(3月から10月)のデータを音響化し、音響芸術という形式に変換して体験します。音響化の過程で、コンピューター上で生み出される音を制御するため、一連の測定データが使用されます。
セイヨウトネリコ(Fraxinus excelsior)は林業や製材業にとって大切な樹木です。落葉高木で、木材は工具の柄やスポーツ用具など、強度と弾力性が求められるものに使われます。気候変動はこれまでになく長期に渡ってより激しい乾燥や暑熱をもたらしますが、近年は導入菌がもたらす立ち枯れ病もセイヨウトネリコにとって問題となっています。さらに、この樹種はタマムシによる被害も受けており、今後数十年でヨーロッパのセイヨウトネリコは大きな被害を受けると危惧されています。
「Growth Model」のインスタレーションはLignoTubesという新しい木材加工造形技術を用いたセイヨウトネリコ材のチューブで構成されており、それぞれのチューブにはスピーカー筐体が埋め込まれています。空洞のチューブ本体がスピーカーの刺激で振動することによってオブジェが電子音響機器となり、そこからTreeNet内の3ヶ所(チューリヒ州レーゲルン、ザンクトガレン州シェーニス、ヴァレー州ヴィスプ)にあるセイヨウトネリコの成長データが音として再生されます。インスタレーションで再生される測定データの日時が展示室内に表示され、音響と成長スパートを日時や季節とリンクさせます。
TreeNetのリサーチ・モニタリングネットワークは、2011年からスイスの森林の健康状態に関するデータを収集しています。2018年に選ばれた8本の木の成長データは、「Growth Model」のインスタレーションにおいて音響芸術という形に変換され、測定データが音の生成を制御する仕組みになっています。このインスタレーションで聞こえるのは、スイスのトネリコの木の成長データです。木がいつどのように成長しているのか、正弦波の音を通じて感じ取ることができます。測定データを音に変換することで、木々が主に夜から早朝にかけて、細胞内の膨圧が十分に高いときに成長することが示されています。
1. Zweifel R, Etzold S, Basler D, Bischoff R, Braun S, Buchmann N, Conedera M, Fonti P, Gessler A, Haeni M, Hoch G, Kahmen A, Köchli R, Maeder M, Nievergelt D, Peter M, Peters RL, Schaub M, Trotsiuk V, Walthert L, Wilhelm M and Eugster W (2021) TreeNet–The Biological Drought and Growth Indicator Network. Front. For. Glob. Change 4:776905. doi: 10.3389/ffgc.2021.776905
2. Zweifel R, Sterck F, Braun S, Buchmann N, Eugster W, Gessler A, Häni M, Peters RL, Walthert L, Wilhelm M, Ziemińska K. Why trees grow at night. New Phytologist. 2021 Jun 12.
3. Etzold, S., Sterck, F., Bose, A.K., Braun, S., Buchmann, N., Eugster, W., et al. (2021) Number of growth days and not length of the growth period determines radial stem growth of temperate trees. Ecology Letters, 00, 1– 13. Available from: https://doi.org/10.1111/ele.13933
芸術的コンセプトと実現化:マルクス・メーダー
測定とデータ処理:ロマン・ツヴァイフェル
プログラミング:ケン・グブラー
参照リンク:https://treenet.info http://www.marcusmaeder.ch http://www.natkon.ch
2023年のプロジェクトについてはこちらをご覧ください。
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本イベントは、スイスと日本の国交160周年を祝う「スイス・バイタリティ・デイズ 2024」の一環として開催され、大阪・関西万博に向けたスイスのコミュニケーションプログラム「Vitality.Swiss」の枠組みで行われました。