2024年10月4日、Vitality.Swissアンバサダーであり、アーティスト、ファッションデザイナーの和・フグラー氏がHEARST madeのクリエイティブ・プロデューサーの小川和繁氏とともに、ファッション、歴史、そして社会的影響についての魅力的な対談を都内のスイス大使公邸で行った。このイベントは、スイス・バイタリティ・デイズの一環として、スイスと日本との国交樹立160周年を祝うものだ。
60名以上のゲストが集まったこの特別な夜は、ロジェ・ドゥバッハ次期駐日スイス大使のあいさつで幕を開けた。続いて、Vitality.Swissアンバサダーであり、アーティスト、ファッションデザイナーの和・フグラー氏が、自身の作品や活動についての発表を行い、短編ドキュメンタリー映像作品『Unstitch and Liberate！』の上映も行われた。続く小川和繁氏との対談では、ファッションの持つ力や文化の重要性についての深い議論が繰り広げられた。その後のレセプションでは、スイスと日本のクリエイティブ産業に関わるゲストを中心に、よりカジュアルな雰囲気の中、多様な交流が深められた。
文化的アイデンティティと複数の文化的交流
和・フグラー氏のアイデンティティは、東京生まれでスイスに拠点を置くスイスと日本の家族から成り立っている。この複数の文化で成長したことは、彼女のデザインや文化のメディエーターとしての役割に大きな影響を与えている。発表では、スイスの職人技の伝統や彼女が双方の祖母から譲り受けた物からインスピレーションを受けたデザインの要素について語られた。特に、スイスのザンクト・ガレンの刺繍の伝統からインスパイアされた作品には、与謝野晶子の有名な詩の言葉が繊細に刺繍されている。この生地は、2023年にチューリヒのリートベルク美術館で展示されたプロジェクト『Unstitch and Liberate！』での印象的なスーツへと仕立てられた。
ファッションを通じた社会的変化
フグラー氏と小川氏の対話は、ファッションが表面的なものとして見られがちな一方で、実際にはアイデンティティの形成や社会的メッセージの発信において深い役割を果たしていることを明らかにした。ファッションは価値観や歴史的物語を伝え、個々の歴史や文化の豊かな織り成すタペストリーを映し出す。フグラー氏のブランド「TAN」は、反物の漢字「反」に由来し、伝統と反抗の間にあるダイナミックな緊張を体現している。イベント会場となったスイス大使公邸には、銘仙着物をほどいて、仕立て直された現代的なジャケットとパンツのセットを含む、フグラー氏の近作を間近で鑑賞することができた。この銘仙は、1920年代の日本における女性のエンパワーメントと現代性を象徴するとフグラー氏は言う。
エンパワーメントとジェンダー平等
フグラー氏と小川氏はまた、ファッションが社会的な物語を形成する―スイスと日本における女性の認識に与える影響についても議論した。日本で育ったフグラー氏は、スイスに住むようになり、自分の意見を表現することに苦労したそうだ。オープンな対話が重視されるスイスの社会に身を置く中で、自分の考えを自信を持って表現することを学び、現在のデザイナーとしての活力あるアイデンティティに大きな影響を与えているとのこと。
ファッションにおける持続可能性
対話では、ファッション業界における持続可能な実践の重要性が強調され、特に着物のような伝統的な衣服に新たな命を吹き込むことが、ファストファッションに比べて環境に配慮したアプローチを生み出す可能性について語られた。フグラー氏は、現代のファッションを通じて文化的遺産に新しい命を与える重要性を強調している。
最後に
和・フグラー氏と小川和繁氏の対話は、ファッションが持続可能性やジェンダー平等といった社会的な問題とどのように交差するかを示した。小川氏は、男性ファッション誌での編集者およびジャーナリストとしての経験から、ファッションが社会変革の力となり得る方法についての洞察を提供した。イベントはレセプションで締めくくられ、参加者たちはアイデアを交換し続け、文化交流を祝うスイス・バイタリティ・デイズの精神を体現したと言える。より持続可能で包摂的な未来を描くことを目指して。
Photos by © Ayako Suzuki