クリエイティブデュオGet It Studioが中銀カプセルタワービルの来世を考えたら? image
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クリエイティブデュオGet It Studioが中銀カプセルタワービルの来世を考えたら?

ローザンヌを拠点とするクリエイティブ・デュオ「Get It Studio」のサンドラ・ゴレイとアレクサンドル・アルマンは、今夏、東京でアーティスト・イン・レジデンスを行いました。その滞在目的は、彼らが敬愛する中銀カプセルタワービルの遺産を彼らなりの方法で残すことです。かつての住民や関係者へのインタビューを通じて、ますます深まった彼らの黒川紀章の代表作と言えるこの建物への敬意は、デジタルアートとモーション・グラフィックに昇華されました。この建物にまつわる多彩な物語を融合した彼らの作品は、中銀カプセルタワービルを持続可能な存在へと変化させたのかもしれません。

サンドラ&アレクサンドル、自己紹介をお願いできますか。

Get It Studio
スイスのクリエーティブ・デュオ、サンドラ・ゴレイとアレクサンドル・アルマンです。5年前からGet It Studioとして、最先端の技術を利用した視覚・映像コンテンツを制作しています。現在、クリエーティブな構想として私たちが重点を置いているのは、コンピューターで創り出した意味のあるイメージやコミュニケーションの制作です。

日本を好きになったのはなぜですか。

Get It Studio
きっかけは2004年に新進気鋭のインタラクティブ・メディア・デザイナーとしてアレクサンドルがNHKの番組出演のために招待されたことです。それから日本はずっと私たちの心とクリエイティブな精神をとらえ続けていて、あらゆる機会を見つけては日本に旅をし、これまで9回も日本を訪問しています。私たちが愛するのは食べ物や伝統芸術、人との交流や建築に至るまでのさまざまな日本です。そして、その気持ちは尽きることのないインスピレーションと興味の源となって、常に私たちのアートの特徴となっています。
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このプロジェクトはどのように始まったのですか。 

Get It Studio
2022年4月に、東京のAlmost Perfectのアーティストインレジデンスについてのインスタグラム投稿を見つけました。海外のアーティストを募集していたのです。2018年10月に設立されたAlmost Perfectは、日本で学んだり、インスピレーションを受けたり、作品を展示したいと希望する海外のクリエイティブな人たちに、主に短期間の滞在プログラムを提供しています。

同じ日に、私たちは中銀カプセルタワーが間もなく解体・破壊されてしまうという、とても悲しいニュースにも接しました。この類を見ない建物はいつも私たちの想像力を刺激してくれました。懐古的未来派の世界観を具現化しているこの建物に多数見られる反復は、前世紀に我が家のテレビ画面に登場し、ディストピア的かつSF的撮影法に確固たる足跡を残しました。ですから、この建物の重要性はその概念構造を超えており、東京から撤去されてしまったとしても、称賛に値するはずです。

そこで、私たちは、中銀カプセルタワーについてのビジュアル・アート・プロジェクトでAlmost Perfectに応募することを決めました。この時点では私たちのアイデアはまだ漠然としていましたが、彼らがコンセプトを気に入ってくれ、私たちを選んでくれました。それで2022年6月に来日することになりました。滞在の最終目標は、6月25日から28日まで彼らのギャラリーで展覧会を開くことでした。

中銀カプセルタワーは東京のスカイラインを代表する建物になっていましたが。

Get It Studio
東京の銀座に建てられた黒川紀章設計の中銀カプセルタワーはメタボリズム建築の概念を代表する建物です。連結する二つのタワーと140のカプセル型集合住宅から成るこの建物は、柔軟性という概念を具体化し、常に変化し続ける社会に適応することを目指していました。

このカプセルはワンルーム・マンションの原型であり、今日のカプセルホテルの祖先であり、一時的に場所を共有するAirbnbの先駆者でした。黒川さんは、「将来、自由な移動のための場所とツールはステイタス・シンボルになる」と書いています。彼は20年から25年ごとにカプセルを更新するというアイデアを持っていて、この建物を修復と進化の能力を持つ有機的構造の象徴と考えていました。

実際には、コンセプトを実現させるには多くの問題がありました。カプセルのひとつを更新するには、その上にあるすべてのカプセルを取り外す必要があることにタワーの住人たちは気づきました。何人もの隣人とこのような調整を行わなければならないのは非常に手間がかかるとわかったので、計画通りに修復されたカプセルはひとつもありませんでした。

その結果、メンテナンス不足と経年劣化が合わさって、夢の理想郷は悪夢と化してしまいました。すべてのユニットで湿気と水漏れが頻繁に問題となりました。最後の数年間は、まだ住人が住んでいるのが約40カプセルで、同じくらいの数のカプセルが事務所として使用されていました。ほとんどの利用者は芸術家や建築家でしたが、他にも様々な分野の専門家がいました。
© Get It Studio

この象徴的な建物はもうなくなってしまいましたが、どうやって作品を制作したのですか。

Get It Studio
このプロジェクトのためだけのオリジナルなアイデアを探すために私たちは自問しました。中銀カプセルタワーの現在のテナントはどうなってしまったのか、あるいはこれからどうなるのか。彼らの居住地は、また、私たちの想像力や、メタボリズム建築運動に対して私たちが昔も今も抱いている夢はどうなるのか。中銀カプセルタワーはどのようにして新たなデジタル形態に進化できるのか。

私たちの狙いは、この機会を捉えて、私たちの解釈を真剣に考える時間を取ってくれるあらゆる人にこれらの質問を投げかけるアートプロジェクトを展開することでした。この建築的・文化的ランドマークが失われたことによって、私たちは何を得て何を失ったのかを見る人たち自身に決めてもらうのです。

中銀カプセルタワーから何を発見したのか教えてください。

Get It Studio
私たちが滞在し始めた頃に、Showcase Tokyoの吉田優香さんとサカイ・マリさんに会う機会がありました。彼女たちは、タワー内部にお客さんを案内する許可を得ている唯一の公認ガイドでした。彼女たちのおかげで、私たちは中銀カプセルタワーについて多くのことを学びました。特に、タワーでの日常生活について話してくれた内容に触発されました。

たとえば、タワーの独特の匂いをアルミ缶に捉えようとした若い女性の話がありました。この女性は実際に私たちの展覧会を見に来てくれたのです。それで偶然にも私たちは彼女に話しかけて、何か説明をしましょうかと尋ねたのです。この作品の前に来た時、この女性は笑いながら、匂いを捕まえようとしたのは自分だと話してくれましたんですよ。なんて素敵な出会いだったことか!私たちはこの作品のコピーを彼女に贈りました。翌日、この女性はまたギャラリーに来て、自身が現在行っているプロジェクトの缶を二つ私たちにくれました。

それから、水漏れがあって、テナントが水を受けるのにビニール袋を持って走り回る話。あるいは、キッチンのないカプセルで食事をしようとして、カップヌードルで我慢せざるを得なかった学生たちの話。こういった話のすべてが私たちの想像力と創造性を刺激しました。また、このタワーに対して私たちが抱いている前向きで多彩な展望に基づいた独自のイメージも展開しました。

タワーはなくなりましたが、お二人の作品は懐古的というより祝祭的です。それはなぜですか。

Get It Studio
不安を誘発する風潮が強まる中、楽観主義に対する不合理な必要性を感じていますし、私たちは、かつてなかったほど風変わりで非現実的な新しい美意識に向かって進化していくと言えます。でも、過ぎ去った時代の規則を拒否するよりも、私たちはその基盤を活用して、現代に欠けている高揚感と幻想をよみがえらせます。私たちが重力と現実の限界を忘れると、機能より感情を優先する夢のように幻想的な印象が生まれ、現代的な作品は非常に写真映えのするグラフィック作品に変わるのです。