アーティスト・研究者のマルクス・メーダー(スイス)とヴェロニカ・モックラー(カナダ)、「EER(Extended Environmental Record|拡張環境の記憶)」-自然の中に設置されたセンサーと地域住民との対話セッションを組み合わせて複雑な生態系を「聞く」取り組みを日本で行っています!
森林の複雑な生態系を人間の耳で聞くにはどうしたらいいのだろう? 樹木の成長する過程は、人間が理解できる言葉に置き換えられるのでしょうか?もし樹木のメッセージを理解できたら、私たちは何を得れるでしょうか?
アーティストであり研究者でもあるマルクス・メーダー(スイス)とヴェロニカ・モックラー(カナダ)は、現在日本で、奈良県下市町の森林に設置したセンサー、そして下市町の地域住民との対話セッションを組み合わせて、これらの疑問に取り組んでいます。その成果は、「Vitality.Swiss」のプログラムのひとつとして、コレクティブパフォーマンス「Extended Environmental Record|拡張環境の記憶」として「MIND TRAIL 奥大和 心のなかの美術館」と「東京ビエンナーレ2023」で発表します。
アーティストコレクティブ「The Extended Environmental Record(拡張環境の記録)」は、奈良の森にツリーネット(TreeNet)と呼ばれる測定ステーションを1年間設置し、3本の樹木の成長と健康データの収集を行います。これにより、樹木の成長と樹木の水分動態に関するデータが得られ、森林の成長パフォーマンスと乾燥ストレスへの対応に関するほぼリアルタイムの指標を多くの方と共有することが可能になります。なおこのセンサーは、スイス連邦森林・雪氷・景観研究所(WSL)、コンピューター音楽音響技術研究所(ICST)、チューリヒ芸術大学(ZHdK)との協働で実施されています。
この記録には、森林での一連の対話セッションを通じて地域に暮らす人、農家、林業従事者から語られた経験を含めることも重要視されています。 このEERプロジェクトは、データ音響化、オーラルヒストリーのサンプリング、アナログ合成、およびフィールド・レコーディングを混ぜ合わせたサウンドパフォーマンスで締めくくられます。このパフォーマンスは、9月17日に下市町でMIND TRAILの一環として、また9月23日の東京ビエンナーレ「TOKYO ART FARM」オープニングイベントの2回にわたって上演されます。
さらに、マルクス・メーダーは、ロマン・ツヴァイフェルとのコラボレーションによるインスタレーション「Growth Model」を東京ビエンナーレ2023で発表します。スピーカーを備えたトネリコの木管を使用した「Growth Model」は、2018年3月から10月までの期間、スイスにある8本の樹木のTreeNetデータをサウンドデータ化したものです。
アーティストコレクティブ
「The Extended Environmental Record(拡張環境の記録)」
EER(Extended Environmental Record|拡張環境の記憶)は、繰り返し行われる集団的なリスニングの実践です。環境を人間以外のものと人間、それらの関係や交差点を含むものとして、EER は知識の実践的、芸術的、科学的形式における差異を支持し発展させ、マーケットや制度的権威からそれらを分散させます。 この記録は、メンバーの状況に応じたニーズと対話による意思決定に基づいてその内容を共有します。
日本での活動として、EER(Extended Environmental Record)は「MIND TRAIL 奥大和 心のなかの美術館」と「東京ビエンナーレ2023」と協力し、「Vitality.Swiss」のプログラムのひとつとして奈良県下市町の森林にツリーネット(TreeNet)測定ステーションを設置します。 測定ステーションは 1 年間にわたって、個々の樹木の成長と健康データを収集します。 気候変動に直面して森林が干ばつにどのように対処しているかを評価するための生態生理学的測定を実施する一方で、この記録には、森林での一連の対話セッションを通じて地域に暮らす人、農家、林業従事者から語られた経験を含めることも重要視されています。 このEERプロジェクトは、データ音響化、オーラルヒストリーのサンプリング、アナログ合成、およびフィールド・レコーディングを混ぜ合わせたサウンドパフォーマンスで締めくくられます。 このパフォーマンスは、9月17日に下市町でMIND TRAILの一環として、また9月23日の東京ビエンナーレ「TOKYO ART FARM」オープニングイベントの2回にわたって上演されます。 2023 年今秋に奈良でスタートするこのEER の記録は、 2024 年秋に再度収集され、森林の成長に関する 1 年間の評価として、取り組みが行われる予定です。
The Extended Environmental Record(拡張環境の記録)
[FEATURING] 永田泰祐 (フォレスター、日本)、野口貴士 (フォレスター、日本)、向井利彦 (農家、日本)、高野加織 (地域住民、日本)、森摩紀子 (地域住民、日本)、水口善文 (地域住民、日本)、西山友梨(MIND TRAILクリエイティブ・チーム、日本)
[WITH] マルクス・メーダー(アーティスト、研究者、スイス)、ヴェロニカ・モックラー(アーティスト、研究者、カナダ)
[オフィシャルサポーター]
マルクス・メーダーの芸術的な研究について: 在日スイス大使館 / Vitality.Swiss 、スイス・プロ・ヘルヴェティア文化財団、サカエ・シュトゥンツィ基金、スイス連邦森林・雪氷・景観研究所(WSL)、コンピューター音楽音響技術研究所(ICST)、チューリヒ芸術大学(ZHdK)
ヴェロニカ・モックラーの生態系危機の芸術的包括性研究について: ユネスコチェア暴力的過激主義の防止(PVE)、コンコルディア大学 学習パフォーマンス研究センター(カナダ)
齋藤精一:リサーチサポート、MIND TRAILプロデューサー(日本)
松原正城:地元協力者(日本)
Vivek Venkatesh: UNESCO-PREV 共同議長、コンコルディア大学
TreeNet測定デバイス: Decentlab AG; NATKON, Roman Zweifel
Allsounderレコーディング機材:Elekon AG
サウンドインスタレーション「Growth Model」
スイスから来日中のアーティスト、研究者のマルクス・メーダーによる「Growth Model」は、気候変動とスイスの森林で観測した樹木の成長との関係を示すサウンドインスタレーションです。
TreeNet研究観察ネットワーク*1は 2011 年以来、スイスの森林の健全性に関するデータを継続的に収集してきました。61ヶ所、420 本以上の樹木が自動センサーネットワークで監視されています。TreeNetの目標は、研究用に樹木の成長と樹木の水力学に関する高時間解像度データセットを生成し、森林の成長パフォーマンスと干ばつストレスの管理に関するほぼリアルタイムの指標を幅広い視聴者に提供することです。
最近発表された研究23では、TreeNetにおける樹木の成長のダイナミクスが初めて詳細に観察され、驚くべきことが判明しました。樹木は主に夜間に成長するーー樹木が土壌と膨圧からの水で道管と細胞を満たし、細胞内の圧力が十分に高い時に。 各樹種は、年間を通じて異なる速度と異なる時間枠で成長し、気候変動の過程で乾燥が進むことも、樹木の成長に影響を与えることがわかりました。
インスタレーション「Growth Model」では、選ばれた8本の樹木の2018 年の成長期 (3月から10 月) のデータが音響化され、音響芸術的な体験形式がもたらされます。 音波化のプロセスでは、コンピューター上で音を生成するために一連の測定が使用されます。トネリコ (Fraxinus Excelsior) は、森林にも木材産業にとっても重要な樹種です。落葉樹である木材は工具のハンドルや柄、スポーツ用品など強度と弾力性が必要なものに使用されます。乾燥・高温の期間がより長く・激しさを増しているという気候変動に加え、近年では、持ち込まれたカビによって引き起こされるトネリコの枝枯れも発生しています。さらにこの樹種を食べてしまう北東アジア原産の緑の甲虫(タマムシ)の脅威により、今後数十年のうちにヨーロッパのトネリコは非常に深刻な壊滅状態に陥るだろうと懸念されています。
「Growth Model」のインスタレーションはアッシュ材のチューブで構成されており、それぞれのチューブにスピーカーの骨組みが埋め込まれています。 チューブ全体はラウドスピーカーの刺激によって振動します。このようにしてオブジェクトは電子音響楽器となり、ツリーネット内の3つの場所 (Lägern ZH、Schänis SG、Visp VS) のトネリコの木の成長データが音として再生されます。 展示空間には、インスタレーション内で再生される測定データの日時が投影され、音響化や成長のスパートを時刻や季節と関連付けることができるようになっています。
Artistic concept and realization: Marcus Maeder Measurements and data preparation: Roman Zweifel
Programming: Ken Gubler
1. Zweifel R, Etzold S, Basler D, Bischoff R, Braun S, Buchmann N, Conedera M, Fonti P, Gessler A, Haeni M, Hoch G, Kahmen A, Köchli R, Maeder M, Nievergelt D, Peter M, Peters RL, Schaub M, Trotsiuk V, Walthert L, Wilhelm M and Eugster W (2021) TreeNet–The Biological Drought and Growth Indicator Network. Front. For. Glob. Change 4:776905. doi: 10.3389/ ffgc.2021.776905
2. Zweifel R, Sterck F, Braun S, Buchmann
N, Eugster W, Gessler A, Häni M, Peters RL, Walthert L, Wilhelm M, Ziemińska K. Why trees grow at night. New Phytologist. 2021 Jun 12.
3. Etzold, S., Sterck, F., Bose, A.K., Braun, S., Buchmann, N., Eugster, W., et al. (2021) Number of growth days and not length of the growth pe- riod determines radial stem growth of temperate trees. Ecology Letters, 00, 1– 13. Available from: https://doi.org/10.1111/ele.13933
www.treenet.info
exhibitions: Touch Wood, ZAZ Museum Bellerive, Zurich, Switzerland (June-Dec 2022)
マルクス・メーダー(Marcus Maeder)
アーティスト、研究者、電子音楽作曲家。サウンドアート、音響生態学、芸術研究、デジタルメディアなど、さまざまな分野で執筆活動も行う。ルツェルン応用科学芸術大学で美術を、ハーゲンのフェルン大学では哲学を学び、現在はスイス連邦工科大学チューリヒ(ETH Zurich)で環境システム科学の博士号を取得。トビアス・ガーバー、ケン・グブラー、クラウディオ・ランドルト、メリア・ロジャー、ヴィヴィアン・ワンとともに音楽レーベルdomizilを主宰。スイスのラジオ局SRFのエディター兼プロデューサーを経て、2005年よりチューリッヒ芸術大学ZHdKコンピュータ音楽音響技術研究所(ICST)の研究員。