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スイス人の食の起業家が日本の麹の世界を旅する

小さなカビがつなぐ文化と健康の架け橋

2023年8月、スイス出身のミルコ・ピッツェラは食に変革をもたらす旅先として愛知県にある麹農家「みやもと糀店」を訪れました。健全な生活への深い考察と、食がウェルビーイングに与える影響に導かれ、彼は新たに発見した知識をスイスで分かち合い、麹を使った健康的な料理という美徳を広めようとしています。

古来からの麹の秘密を再発見し、より健康的な世界へ

ファーストフードが氾濫し、料理の伝統が利便性の影に隠れがちなこの世界で、ミルコ・ピッツェラは、栄養の力を強く信じる者として、日本料理の中心的存在である麹という微生物の謎を探るため、人生を変える旅に出ました。麹職人である宮本さんの専門的な指導の下での日本滞在は、この古来からの食材の奥深い可能性を明らかにしました。この経験が食と人生に対する彼の考えにどのような影響を与えたのでしょうか?スイスで食を通してより健康的なライフスタイルを追求する彼の原動力とは?さあ、麹を巡るミルコの旅にご一緒しましょう。宮本さんの知恵からインスピレーションを得て、彼は故郷の料理の伝統をどのように再構築しようとしているのでしょうか。

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麹: 日本料理における風味と健康の隠し味

麹は、酒、味噌、醤油、みりんなどの伝統的な日本食の要であり、日本料理の伝統において中心的な役割を果たしています。伝統的な日本料理を探求していると麹という名前に出会いますが、そもそも麹とは何なのでしょう。

何世紀もの間、日本料理の伝統は麹として知られる特別なカビの力を利用してきました。この微細な菌、アスペルギルス・オリゼー(Aspergillus oryzae)は料理に驚くべき変化をもたらす酵素の宝庫です。これらの酵素は、タンパク質をおいしいアミノ酸に、炭水化物を甘い糖分に、脂質を芳香脂肪酸をはじめとする風味豊かな化合物に変えることができます。麹はグルタミン酸と呼ばれるアミノ酸を放出し、これがほとんどの和食のうま味の元となっています。伝統的に、麹は醤油、味噌、酒の醸造に使われ、ある種の野菜の苦味を和らげるその優れた能力はまるで魔法のように見えます。さらに、うま味は風味というだけでなく、余分に砂糖を加えなくても甘味を感じさせたり、塩を加えなくても塩味を感じさせたり、苦味を感じなくさせたりします。これらの特質により、うま味はより健康的な食習慣を育み、より環境に優しい食品システムへの移行を支える極めて重要な要素となっています(Mouritsen, 2022)。

麹や発酵大豆製品と健康との関係についてはさらなる研究が必要ですが、多くの研究結果から、その摂取に関する健康上の利点が見つかっています。2016年のHamajimaら、そして2019年のJayachandran & Xuの研究によると、麹は消化を改善し、免疫システムを強化し、ビタミンB群やミネラルなどの様々な栄養素をもたらします。

ミルコ・ピッツェラのスイスでの料理の旅

スイス人のミルコ・ピッツェラ(37歳)はスイスのアールガウ州ツフィコンで生まれました。製パン・製菓の見習い1年目を終えた後、高校に進学し、2009年に無事卒業。その後、2016年に東アジア美術史を第二専攻とする日本学の学士号を取得しました。ミルコは、私たちの行動と環境との相互関係を、そしてこの関係において食がいかに重要な役割を果たしているかを固く信じていました。その追求の結果、彼は代替的な食の構造を実験してみようと、地元の持続可能なオーガニック食品を調達する食品協同組合を設立しました。自発的な活動、そして政治的な動機に基づく料理が原動力となったこの事業は、彼の哲学を体現するものでした。

日本の食と文化に魅了されたミルコの旅は2008年にスイスの豆腐工場「Tofurei Engel」へと続き、2012年と2016年には2度日本を訪れ、ワークショップや地元の人々との交流を通じて料理、健康、食への情熱を分かち合うことで日本料理を探求しました。日本料理の本場で研究に没頭した彼は、豆腐工場に続いて、2017年にレストランを併設した地域の村のオーガニック商品の店「Pfünderli」を共同設立しました。ミルコは2012年から2017年までスイスのエッゲンヴィルにある有機農場に住み込みで働いていたことがあり、その運営に関わり続けているため、「Pfünderli」のために農場から残り物の野菜を取り寄せています。

彼は今も「Pfünderli」での仕事を続けていますが、店の業態はカフェを併設した村の売店へと変わりました。この業態転換は単に商業的な意味合いだけでなく、当時スイスで高まっていた廃棄物ゼロ運動とも合致していました。この店の目的は、消費者と食品との関係を再定義し、より健康的で環境に配慮したアプローチを提唱することでした。この経験は彼の食に対する考え方を形成し、栄養と健康のより深いつながりを探求することにつながりました。愛知県滞在中も探求は続きました。

麹の核心への旅 - 愛知県でのインターンシップ

ミルコが日本に戻る大きなきっかけとなったのは、豆腐に興味を持った地元の人との出会いであり、スイスでは比較的手に入りにくい食材だった味噌や麹の製造についての対話でした。この出会いに触発されたミルコは、愛知県を拠点とする麹職人、宮本さんの専門的な指導のもと、日本の麹作りをより深く掘り下げるため「みやもと糀店」で修行をすることになりました。ミルコはこう語ります。「日本の伝統的な食文化について、もっと多くを見て学びたいと思いました。手作業で、愛情とたくさんの思いを込めて、ゆっくりとしたペースで麹が作られていく様子を見るのは、とても素晴らしいことだと思いました」

宮本さんの知恵と(黒)麹の魔法

愛知県の麹職人、宮本貴史さん(47歳)は、日本料理の伝統の真髄を定義づける、時代を超える旅を始めました。宮本さんは麹を単なる調味料ではなく日本料理の魂と考え、麹についての知恵を披露します。家族思いの宮本さんですが、奥さんと娘さんが宮本さんの事業を支えています。

8年前に農園兼ショップ「みやもと糀店」を立ち上げるまで、宮本さんの旅はさまざまな道をたどりました。元々バックパッカーでしたが農業に転身し、それから麹ビジネスの先駆者となりました。麹屋は代々続くものという伝統的な考えに反して、宮本さんは革新的な精神で店を構え、この8年間麹を作り続けてきました。料理に関する宮本さんの専門知識は食材のみにとどまらず、製麹工程における正確なタイミングの探求にまで及んでいて、これがミルコを強く惹きつけました。伝統的に泡盛や焼酎などの蒸留酒に使われる黒麹の独特な味に触発された宮本さんは、日本で昔から飲まれている甘酒の製造に乗り出し、豊かな伝統を家庭の日常生活に取り入れました。宮本さんは家族とともに、伝統と現代の食体験との間にある溝を埋めながら、麹の風景を作り続けています。

宮本さん曰く、「米や水など、麹を作る上で重要な要素はたくさんありますが、私はタイミングがとても重要だと思います。タイミングよく素材を扱うこと。同じ米を使っても、タイミングによって違ってきます」

宮本さんにとって、麹は単に食品をより健康的にするだけのものではなく、食品の保存、ひいては持続可能性のためのものでした。麹が食品にさまざまな栄養素を与え、結果的に健康効果を高めると宮本さんは確信していました。彼は次のように話しています。

「かつては、麹、味噌、醤油などの発酵文化は健康になることを目的としていたのではなく、特に山間部の豪雪地帯や夏しか作物が育たないような地域で食品を長期間保存するためのものでした。発酵によって食品の栄養価が高まるかもしれませんし、食品の賞味期限を延ばすことは持続可能性につながると思います。それに、麹はさまざまな栄養素を生み出すので、健康効果も高まると思います」

ミルコの麹づくりの日々

ミルコは日本で麹づくりの世界に足を踏み入れ、伝統の技の真髄に係わる複雑な日課に出会いました。麹づくりは、その要である米を丹念に仕込むことから始まります。米を丹念に洗い、浸水させ、水切りをして蒸す。この蒸し工程で心地よい香ばしい香りが漂い、ミルコと日本食の伝統の真髄をつなぐ感覚的な体験が生まれます。

麹づくりの重要な工程として、麹菌の胞子を散布して貴重な麹菌の培養地を作ることが挙げられます。この大切な工程は細心の注意を払って、3段階に分けて行われます。ミルコと宮本さんは米の上に胞子をそっと広げ、この重要な要素が均等に行き渡るようにします。この工程には、素材に対する深い敬意、触覚による気づき、愛情が表れており、麹づくりにおける素材の重要性がよくわかります。全体を通して、注意深く混ぜ合わせ、回転させ、優しくすりつぶす工程があり、そのすべてに生命のサイクルを育む大切な行為への意識が満ちています。

麹菌の胞子が完全に混じり合うと、米は大きな箱に広げられ、多くの場合、この箱には生命の連続性を意味する渦巻き模様が施されています。最終的な乾燥工程に入ると、その間、箱には念入りにカバーがかけられ、扇風機で湿気を取り除きます。麹は高温に非常に弱いため、全工程を通じて温度管理が最も重要です。温度管理の技術は、理想的な状態を維持するために夜も交代で働いた先人たちの献身のたまものです。

麹の知恵をスイスで実践

日本で貴重な知識と実地経験を得たミルコは、麹の魔法を広めることを使命としてスイスに戻ってきました。日本の味を紹介することだけでなく、麹が人々の生活に活力を与えられると伝えることに重点を置いています。

ミルコの麹に関する知識は、この小さな生物と私たちを取り巻く世界とのユニークな結びつきを浮き彫りにしました。ミルコは麹に関する知識と、地球上で最大かつ最古の生物であるアルミラリア・オストヤエのようなキノコ類が地下で広大なネットワークを形成し、植物や樹木を元気にする情報や栄養を運んでいるという考えとを結びつけています。この相互接続性はキノコ類の重要な役割を際立たせ、最終的に、麹は地球上の生命のタペストリーの中で認識されていないヒーローになります。ミルコが詩的に表現するように、「キノコ類は地球上の生命の鍵」であり、彼が集めた知恵によると、麹の役割は「とても貴重で、生きているもの」となります。彼は麹を単なる調味料や薬味ではなく、生命を体現するものであると捉えているので、「死んだ食べ物」が蔓延している昨今に対して、より「生きた」、生命力あふれる、滋養に富んだ食べ物の重要性を強く訴えています。

ミルコの料理の旅はまだまだ続き、その冒険からもっと多くの物語が生まれることでしょう。彼は間もなく日本に戻って、料理という探検からさらなる物語を生むはずです。麹の魔法をスイスに紹介するという彼の目標は単なる個人的な使命ではなく、料理の伝統、健康、持続可能性を融合させることなのです。ミルコは新しく発見した技術を伝えるだけでなく、スイスの職人技の精巧さと麹菌発酵という古来の技術を絡み合わせることを目指しています。複雑な工程を掘り下げるうちに、彼は2つの料理の世界をつなぐ架け橋になることを思い描くようになったのです。

ミルコはスイスに戻り、麹を使ってスイス料理を再構築しようと実験を続けています。実際、「Pfünderli」では、ミルコの日本での知識と経験をもとに、味噌、麹、甘酒作りなどの新しいワークショップを開催しています。また、文化に根差した料理を融合させるというクリエイティブなアイデアもあったので、甘酒フィリング入りのパンや甘酒抹茶ラテなどのレシピを考案しています。宮本さんも、何百年にも及ぶ麹の伝統を活かして新しい料理体験を創造したいという展望を次のように語っています。「麹、醤油、味噌の歴史は何百年にも渡ります。(中略)麹を使って、ワクワクするような表現やインスピレーションを与えられるようになりたいです」

麹は単なるカビではなく、生命力、風味、健康という小宇宙であり、これからの研究が待たれます。麹には、食に対する私たちの考え方や私たちと自然とのつながりを再構築する力があり、異文化間の溝を埋め、食に対するより全体的なアプローチをもたらします。宮本さんの次の言葉に表れているように。

「麹の錬金術は小さなバクテリアの中にあります。でも、麹は私たちを大きな世界へと旅立たせてくれます。ちょうどスイスとか外国旅行をした時に感じるのと同じです。麹の中には小さな宇宙を感じることができるのです」

引用:

Hamajima H., Matsunaga H., Fujikawa A., Sato T., Mitsutake S., Yanagita T., Nagao K., Nakayama J., Kitagaki H (2016). Japanese traditional dietary fungus koji Aspergillus oryzae functions as a prebiotic for Blautia coccoides through glycosylceramide: Japanese dietary fungus koji is a new prebiotic. Springerplus. 11;5(1):1321.

Jayachandran, M., & Xu, B. (2019). An insight into the health benefits of fermented soy products. Food chemistry, 271, 362-371.

Mouritsen, O. (2022). Umamification of food facilitates the green transition. Department of Food Science, Taste for Life, Design and Consumer Behavior, University of Copenhagen, 26 Rolighedsvej, DK-1958 © Higher Education Press 2022