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健康長寿

2024年9月17日、敬老の日の翌日、東京のスイス大使公邸で健康長寿に関するイベントが開催されました。スイスと日本という健康的なエイジングの分野で世界をリードする2国の専門家が集まり、高齢化社会の課題と機会について議論しました。このイベントはスイス・バイタリティ・デイズの一環として行われ、高齢化社会が直面する課題に対処し、より包括的な未来を探るため、健康長寿に取り組む著名な出席者が集まりました。

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このイベントは新たに着任したロジェ・ドゥバッハ次期駐日スイス大使が大使公邸で初めて開催したものです。ドゥバッハ大使は開会のスピーチで、長寿に影響を与える重要な要素として、高い生活の質、強力な医療システム、良好な食習慣を挙げました。また、スイス人がハイキングを好むことが心身の健康を促進し、不安やうつ病、心臓病や高血圧などの慢性疾患のリスクを軽減するのに寄与していることにも言及しました。大使は今回のイベントが日本とスイスの健康長寿エコシステムのつながりを強化する一助となることを願い、スイス・バイタリティ・デイズのスポンサーに感謝の意を表しました。

スイスにおける長寿の状況:ハンス・グロート博士から学ぶ

スイスの高齢化の状況に関する最初の講演では、ハンス・グロート医学博士(世界人口動態高齢化フォーラム会長)が、65歳以上の人々の増加により労働年齢人口への負担が増していることを指摘し、高齢依存人口比率の増加について議論しました。スイス国民は健康寿命が長い一方で、障害を抱えて生きる年数も増えています。この健康寿命と平均寿命の「寿命の差」はスイスにとって大きな課題です。

グロート博士は、社会は現在重要な岐路に立たされていると述べました。高齢者を社会的および経済的なエコシステムに積極的に統合するか、それとも孤立させるかという選択肢があるのです。また、高齢化の課題を機会に変えるためには、技術、経済、法律、政治、社会など、複数のステークホルダーによる対話が不可欠であると訴えました。これらの問題に対処するため、グロート博士はより長期間かつより柔軟な働き方を奨励し、ボランティア活動や地域社会への関与を促進し、世代間の社会的スキルを強化し、より高齢者に優しい環境を再設計し、高齢者向けの新しい市場を開発し、世代間の知識移転を促進し、家族の絆と介護システムを強化することなどを提案しました。

日本の超高齢社会:阿久津靖子教授の見解

阿久津靖子教授(株式会社MTヘルスケアデザイン研究所代表取締役社長、千葉大学医学部附属病院助教授)の講演「日本の長寿:達成した要因と直面する課題」では、遺伝的要因、高度な医療システム、そして伝統的なバランスの取れた食習慣が日本の並外れた長寿の要因であるとの説明がありました。教授は、日本の高齢者福祉政策が1960年代から始まり、包括的な健康診断の利用が病気の早期発見と長寿に寄与していると述べました。

一方で、阿久津教授は日本が超高齢社会として直面するいくつかの課題にも言及しました。特に、食生活の西洋化が健康に悪影響を及ぼしている「沖縄クライシス」や、都市化によって伝統的な地域の支援システムが崩壊していることが指摘されました。教授は、過疎化が進む「限界集落(住民の半数以上が高齢者)」や「限界団地(高齢化団地)」の増加が、必要不可欠なコミュニティ活動の維持を困難にし、孤立が増加している現状を示しました。さらに、医療や介護の人材不足が今後さらに悪化する可能性があることも述べました。阿久津教授は、技術、特にエイジング技術にはこの問題を軽減する潜在力があるものの、手遅れにならないうちに完全に欠陥を補うことはできないかもしれないと懸念を表明し、高齢者の技術リテラシーを向上させて自分でそういったツールを使えるようにする必要があると注意を促しました。

グローバルな視点:トーマス・ツェルトナー教授と国連の「健康な高齢化の10年」

トーマス・ツェルトナー教授(スイス赤十字社社長、世界保健機関(WHO)財団設立者・会長、スイス連邦保健局元事務次官)は、国連の「健康な高齢化の10年」を紹介し、長寿は人類の最大の成果の一つであると述べました。しかし、単に寿命を延ばすだけではなく、高齢者が晩年においても良好な健康と福祉を維持することが重要であると強調しました。この「10年」の目標は高齢者の機能的能力を最適化することです。そこには、基本的なニーズを満たし、学び成長し続け、可動性を維持し、関係を築き、社会に貢献することが含まれます。

ツェルトナー教授は、「健康な高齢化の10年」における4つの行動領域として、高齢者の能力を引き出すための高齢者に優しい環境の創出、高齢化に対する社会の見方を変えることによる高齢者差別の撲滅、必要な人への長期介護の提供、統合的かつ個別化された高齢者ケアの提供を挙げました。教授は、高齢者が自分に合った環境で安全に年を重ねながら、個人的に成長し続け、コミュニティに貢献できるようにすることの重要性を強調しました。

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パネルディスカッション:包括的で世代を超えたコミュニティを築くために

フロリアン・コールバッハ博士(ザ コカ・コーラ カンパニー日本・韓国オペレーティングユニット商業変革担当副社長、元エコノミスト・インテリジェンス・ユニット日本支社長)がモデレーターを務めたパネルディスカッションでは、すべての世代がコミュニティ生活の形成に関与する継代社会の重要性が議論されました。パネリストたちは、身体的および精神的健康、包括性、福祉を支えるように社会を設計するためには、あらゆる年齢層からのフィードバックを得る必要があると強調しました。また、特に介護におけるジェンダーの不平等を減らす必要性を強調するとともに、コミュニティの構造を再考して、人々が意味のある方法で互いを支え合う重要性を訴えました。

これらの変化を支える技術の役割も議論され、パネリストたちは、技術が高齢者と介護者の双方の生活の質を向上させる可能性があるとの認識を共有しました。分野を超えた複数のステークホルダーによる対話の重要性に加えて、健やかに年齢を重ねるための好ましい環境を創り出す必要性も確認されました。都市化、気候変動、技術進歩といった他のメガトレンドが高齢化の課題とどのように交差するかについても議論されました。

終わりに:高齢化が労働市場に与える影響

閉会のコメントでは、樽見英樹氏(日本年金機構副理事長、元厚生労働省事務次官)が、常に変化する社会に向けた堅固な福祉制度を築く重要性と課題の対比を行うとともに、国を超えた交流や互いに学び合うことの価値に触れました。清家篤氏(日本赤十字社社長、内閣府経済社会総合研究所名誉所長)は高齢化社会の労働市場への影響について述べました。人口高齢化に伴う労働力の減少は重大な問題です。高齢者の労働を促すことによって社会保障制度の負担を減らすことができます。そして、健康寿命を延ばすことによって、高齢の家族を介護するために離職することが多い女性も働き続けることができるようになります。

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主なポイント

講演やパネルディスカッションでいくつかの重要なポイントが示されました。高齢化社会の課題と機会はすべての世代や社会階層に関わるものであり、世代間の協力を促進するためには、社会構造を再構築・再編成する必要があることは明らかです。健康な長寿は単に寿命を延ばすことにとどまらず、目的を創り出し、高齢者が活動的で、つながりを持ち、社会参加し続けるよう促すことです。

また、「高齢者」という定義を再考し、社会全体が老化をどのように捉えているのか見直す必要があるという議論もありました。AIなどの新しい技術は、新たな高齢者ケアのあり方を作り出すエイジング技術の分野において革新的な可能性を秘めており、高齢者と介護者の双方を支える新しい手段を提供すると期待されています。

最後に、スイスと日本が健康長寿の分野で他をリードし続ける一方、社会が適応し、革新していく必要があると結論づけました。そうすることで、すべての世代が後年の人生を楽しみ、そこで貢献し、充実した時間を過ごせるのです。