スイス人アーティストで料理人のマヤ・ミンダー(Maya Minder)と、作家でキュレーターのエベン・シャルドロネ(Ewen Chardronnet)が、エコロジーの転換期における藻類の可能性を探るドキュメンタリー・エッセイ。1949年に紅藻類のライフサイクルに関する重要な科学的発見をし、戦後の日本における海苔養殖の隆盛に貢献したイギリスの藻類学者、キャサリン・ドゥルー・ベーカーの遺産を巡る。作品ではドリューを「海の親」として、彼女が戦後の九州に植え付けた貢献を称え、気候変動という新たな試練に立ち向かうレジリエンスへのインスピレーションを求める。映画にも登場するSHIBAURA HOUSEでの試写会。
Umi No Oya - 海の親
Ewen Chardronnet & Maya Minder, 2024, 63’
日本の南部、宇土半島の付け根、住吉自然公園内の神社の近くに石碑がある。碑に描かれているのは、ボタンダウンシャツを着て、眼鏡をかけた中年女性の横顔で、その視線はまるで海を見守るかのように、少し上の遠くのほうに注がれている。肖像の下には「IN MEMORY OF MADAME KATHLEEN MARY DREW, D. Sc.(キャサリン・ドゥルー・ベーカー女史を偲んで)」と刻まれている。日本に一度も足を踏み入れることなく、1957年に56歳で亡くなった英国の藻類学者である。
1930年代から海苔などのヨーロッパの紅藻類を丹念に研究していたキャサリン・ドゥルー・ベーカー博士は、1949年に海苔の胞子が牡蠣の殻に巣をつくることを発見した。彼女はその発見について、科学ジャーナル『ネイチャー』誌で論文を発表し、熊本の海洋植物学者、瀬川宗吉に知らせ、それを聞いた太田扶桑男がこの技術を有明海の海苔養殖業者に広めた。有明海の海苔生産量は数年のうちに著しく立ち直り、その後数十年で海苔産業はピークに達することになった。
1963年以来、住吉自然公園にある記念碑は、解明されていなかった海苔のライフサイクルを最初に発見したキャサリン・ドゥルー・ベーカー博士を記念している。毎年夏、牡蠣殻に丁寧に海苔の胞子を植えつけているこの地域では、彼女は海苔養殖の生みの親(umi no oya)として知られている。英国の植物学者である彼女の功績を称え、毎年4月14日に神社でお祭りが開催されている。伝説的な彼女のことを「海の親(umi no oya)」または「(有明)海の母」と称する人がいるのも不思議ではない。
協力:アンテレ・ポー、ART2M、DDAコンテンポラリーアート、スイス・プロ・ヘルヴェティア文化財団、在日スイス大使館 / Vitality.Swiss、スイスネックス・ジャパン、Biolab Tokyo、metaPhorest(早稲田大学)、ジュ・ド・ポーム国立美術館、欧州連合(EU)クリエイティブ・ヨーロッパ助成More-Than-Planetプログラム。
日時:2024年10月11日 19時~
※作品上映(約50分)後に簡単なレセプションを行います。
入場無料・登録不要(席数に限りがあるため、当日先着となります)
会場:SHIBAURA HOUSE(東京都港区芝浦3-15-4)
ストーリーのカバー:
Umi no Oya, 2024, Ewen Chardronnet and Maya Minder