気候変動に国境はありません。気候の変化は、地球上のすべての人に影響を及ぼしますが、その影響をより強く感じている地域もあります。気候変動を緩和するための対策は、時にジレンマをもたらします。人々が十分に快適な生活を維持しながら、気候変動の影響をいかに軽減できるのでしょうか。
ひとつはっきりしていることは、安全で手ごろな価格のエネルギー供給は、生活環境を改善し、商品やサービスの安定した生産プロセスを可能にするということです。したがって、すべての人がエネルギーを利用できるようにすることが、持続可能な開発、貧困の削減、気候変動の防止につながるのであります。スイスは、特に大気の質とエネルギー効率の高い建物の分野で、こうした課題に対する現実的かつ具体的な解決策を開発することに尽力しています。ごく最近まで、すべての人がエネルギーにアクセスできるようにするためには、発電所や配電網のような中央集権的なインフラに依存してきました。デジタル技術やその他の技術がこの状況を変えつつあり、よりローカルで柔軟なソリューションが世界の隅々まで普及し始めています。分散型ストレージ・ソリューション、マイクログリッド、コネクテッド・デバイスのためのエネルギー管理プラットフォームの出現が見られます。世界有数の蓄電池ソリューション企業であるルクランシェ社と協力することで、スイスはこのようなソリューションを提供できる立場にあります。
Climeworks
大気中の二酸化炭素を長期貯蔵
Climeworks社が開発したテクノロジーはシンプルかつ効果的で、巨大な「フーバー(電気掃除機)」を使って空気中の二酸化炭素を回収して地中に持続的に貯留することで、地球温暖化対策につなげるというものです。同社は2022年初めに6億スイスフランを調達し、その技術は現在アイスランドの試験的プラントで使用されています。回収された二酸化炭素は水と混合されてから地下700mに送られます。火山岩と接触することで二酸化炭素は石灰岩に変化し、環境への危険性はなくなります。2024年初夏には、1基目の約10倍の大きさの2基目の施設が稼働し始めました。その他にも米国、ケニア、カナダ、ノルウェーで計画が進んでいます。米国では3つの回収施設を建設する最終候補リストにClimeworksが挙がっており、米国政府は合計6億米ドルの資金を提供する予定です。チューリヒに本社を置く同社は2050年までに少なくとも10億トンの二酸化炭素を大気中から除去し、気候変動との闘いに大きく貢献することを目指しています。
Solaxess
スタイリッシュなソーラー・ファサード
Solaxess社はスイス電子・マイクロテクノロジーセンター(CSEM)と共同で、建設業界に旋風を巻き起こすナノテクフィルムを開発しました。このフィルムはソーラーパネルに直接使用することができ、パネルの効率に影響を与えることなく、表面を白または別の色に着色することができます。このフィルムは選択的鏡面のような働きをし、可視光を散乱させて白色の表面を作り出し、赤外線はその裏側の太陽電池に届くようにします。革新的なソーラーフィルムで覆われた表面は従来のソーラーパネルよりも魅力的で、建物の断熱にも役立ちます。Solaxess社のパネルはすでに中国、シンガポール、スウェーデン、スイスで建物の外壁に使用されています。
Fixit
ポリスチレン断熱材に代わるエコロジカルな断熱材
Fixitは世界で初めて環境にやさしい建物断熱材のためのエアロゲルを販売した企業です。ミネラルと90%以上の空気からできているFixit漆喰は、21世紀の基準に合わせて歴史的建造物を改修するのに理想的で、そのエネルギー消費を削減します。高い水蒸気透過性によりカビを防ぐことができます。同社のエアロゲルは、リサイクルも再生もできないポリスチレン断熱パネルに代わる環境に優しい断熱材です。Fixitグループはすでにロシアを含むヨーロッパ19カ国に進出しています。
Studer Innotec
すべての人に電気へのアクセスを
世界には電力網につながっていない人が16億人います。スチューダー・イノテック社はインバーター製品群を開発しています。インバーターは、再生可能エネルギー生産(主に太陽光発電)と消費者との間の電力の流れを柔軟に管理することを可能にするパワーエレクトロニクス機器です。このシステムは、バッテリー、再生可能エネルギー生産、そして時には送電網を交互に切り替えることで、継続的な電力供給を保証します。スチューダー・イノテック社のインバーターはアフリカやアジアで広く使用されていて、隔絶した地域にうってつけだとわかりました。また、山小屋などのオフグリッド建築物、車載システム、病院や産業用の非常用電源などにも使用されています。