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「同時に踊る、もう1人の私」ソフィー・ ギュヨー

スイスの現代アーティスト、ソフィー・ギュヨーは、一般的な人間性を表す比喩として環境を扱う作品をこれまでに多く発表しています。そんな彼女が中之条ビエンナーレ2023のテーマ「Cosmographia(コスモグラフィア)」を受け、新たに作り出した世界「同時に踊る、もう1人の私」とは?

ローザンヌ大学で文学を学び、独学でビジュアル・アートの道を歩んできた現代アーティストのソフィー・ギュヨーさん。これまでに光・Light(ing)を使用した作品を多く制作し、人間とビオトープとの関係を示してきました。また、取り組むべき場所との具体的な接触(素材や場所)が、彼女の創作意欲・デザインに欠かせないとも。そんな彼女が、今夏「中之条ビエンナーレ2023」で新作「同時に踊る、もう1人の私」を発表します。

中之条ビエンナーレ2023 コスモグラフィア - 見えない土地を辿る -

今年第9回を迎える中之条ビエンナーレは、群馬県中之条町で隔年開催される国際現代芸術祭です。参加アーティストは自然と人間が共存する山村文化が脈々と受け継がれている中之条町でアーティスト・イン・レジデンス(滞在制作)を行い、その成果を中之条ビエンナーレで発表します。

中之条ビエンナーレ2023 総合ディレクター 山重 徹夫氏
中之条ビエンナーレ2023のテーマである Cosmographia(コスモグラフィア)は、ドイツの地理学者ゼバスチアン・ミュンスターによって、16世紀に出版された世界各地の民族・風俗・習慣・歴史・宗教などを網羅した百科的な地誌のタイトルです。航空機が誕生する以前、世界地図のほとんどは想像で描かれ、彼は見えなかった世界を想像して美しい版画として残しました。21世紀となった現代、私たちは世界中の出来事を日々知ることができますが、その反面、溢れかえる情報に覆いつくされ、見えなくなっているものが多くあります。(全文を読む

ソフィー・ギュヨー「同時に踊る、もう1人の私」

ギュヨーさんは二つの向き合う映像のインスタレーション「同時に踊る、もう1人の私」で、二人の女性の出会いを通して、異文化や世代を超えたつながりに光をあてます。二人の女性とは、中之条に住む定年退職をされた齋木かをるさんと、スイスに生まれ50歳を過ぎたビジュアル・アーティストであるギョーさん自身です。

ひとつの映像に映し出されるのは、齋木さんです。齋木さんは、中之条で親しまれている踊り(音頭)の基本を数回のZOOMでのやり取りを通じて、ギョーさんに伝えようと試みます。

「同時に踊る、もう1人の私」ソフィー・ ギュヨー image

もう一方の映像に映し出されるギョーさんは、過去に一連のパフォーマンスで使用した衣装を身につけ、分身のような存在になっていたキャラクターに再び身を委ねます。このプロジェクト用に、ギョーさんはスイス中部の山岳地帯、レッチェンタール(ヴァレー州)の「チャガタ」※を想起させる怖い風貌の仮面を使用しています。このチャガタの起源はいまだに謎に包まれています。中之条町もまた群馬県の山奥にあります。

※毎年2月3日から灰の水曜日までの間、ヴァレー州のレッチェンタールの住民はファスナハト(カーニバル)の怪物に姿を変えます。「チャガタ」と呼ばれる怪物は、木製の恐ろしい形相の仮面をつけ、羊の皮にくるまって村々を歩き回るという風習が続いています。
参考:SWI swissinfo.ch 「スイスのなまはげ」(日本語)、Living Traditions in Switzerland(独・仏・伊・ロマンシュ・英) 

スイスでは山との強い関係が人々の想像力の一部を形成しています。
ソフィー・ギュヨー
「同時に踊る、もう1人の私」ソフィー・ ギュヨー image

ギョーさんのマスクには、木の根で作られた巨大な角が取り付けられています。これは王冠のように権力に属するオブジェは尊敬を集めるようなデザインになっているという観察から生まれたものです。逆説的ではありますが、同時に、これらのオブジェクトは厄介で重く、持ち主を不快な状況に追い込み、肉体的な弱ささえも感じさせるとギョーさんは言います。

「臣民からの敬意によってのみ、肉体的な弱さから守られるのでしょう。エリザベス女王自身も、即位したときの王冠はとても重く、一歩間違えれば首の骨が折れていたかもしれないとインタビューで語っています。この巨大な角は、私のキャラクターに鹿の威厳を与えるでしょうが、同時に私の動きを妨げ、私はバランスを崩すかもしれません。齋木さんが求める踊りの動きをするのが難しくなります。自分の肉体的な限界への要求と、さいきさんの真似をしたいという心理的な要求との二つの要求を両立させないとならないのです。」

ギョーさんは、このプロジェクトを通じて、他の人たちの方向に一歩を踏み出すこと、真の文化交流がどのようなつながりを生み出すのかを理解したいと言います。
「私は日本文化に関しては全くの素人です。私のプロジェクトを実現させるためには、ここスイスにいる協力者(翻訳家のブルクハルト綾子さん、弓道と日本文化が大好きなスイス人の友人テッサ・ゲルスターさん)、そして中之条にいる協力者(中之条ビエンナーレの岸本涼香さん、中之条ビエンナーレ総合ディレクター 山重徹夫さん)との協働が必須です。」

齋木かをるさんとのこの芸術的なコラボレーションには、このように地球の裏表にいる半ダース以上の人々のネットワークを必要としています。その方たちが、異なる世代、異なる考え方と行動様式を持つ、地理的に離れた2つの地域に住む2人の女性の間に、見えない糸を紡ぐ手助けをしてくれるのです。
ソフィー・ギュヨー

ソフィー・ギュヨーさんの「同時に踊る、もう1人の私」が実際にどのような作品として展示されるのか、ぜひ中之条ビエンナーレを訪問してご自分の目でお確かめください!

中之条ビエンナーレ2023

会期:2023年9月9日(土)-10月9日(月祝)
開催場所:群馬県吾妻郡中之条町 町内5エリア約40ヶ所 
詳細:中之条ビエンナーレ2023

「同時に踊る、もう1人の私」ソフィー・ ギュヨー image

ソフィー・ ギュヨー、ビジュアル・アーティスト
近作は「The Meaning of Meaning」(スロベニア、リュブリャナのSvetlobna Gverilaフェスティバルにて、2023年)。人類のあり方について考察する「H-U-M-A-N-? 」(イタリア・コモのテアトロ・ソシアーレ、2016年、グラーツのKlanglicht festivalでも2019年再展示)、「Sense of Place」展(シカゴ、エルムハースト美術館、2016年)、光のインスタレーション「Tsogio? – Canter? – Galop?」(Land Art Mongolia 2018年)など。さらに、ローザンヌのシアター・アルセニックの常設アート・インスタレーションのデザインも手がける(2013年)。現在、ローザンヌの新しいエコ地区、プレーン・デュ・ルーの公立学校の常設インスタレーション(”Wunderbaum”)を準備中。2023年9月9日~10日、中之条ビエンナーレ2023にて新作ビデオインスタレーション「同時に踊る、もう1人の私」を発表予定。
https://www.sophieguyot.ch/

ストーリーのカバー:
From “In Trust I Trust”, a performance by Sophie Guyot