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デジタルシフト展

スイスのクリエイティブ・デュオ「Get it Studio」は、5月31日から6月7日まで東京に滞在し、最新作である没入型展覧会「デジタルシフト」を開催しました。インタビューでは、現実と仮想の境界線を曖昧にするような彼らの作品に対して、AI(人工知能)やAR(拡張現実)技術が彼らの作品に与える影響について、さらに詳しくご紹介します。

© Get it Studio

スイスのクリエイティブ・デュオ「Get it Studio」のサンドラ・ゴレイとアレクサンドル・アルマンは、アーティストとして研究制作に加え、グーグル、アドビ、ユニクロ、ロレックス、ロジテックとのクライアントワークも行っています。テクノロジー、自然、建築の境界で、新しい視覚表現を生み出しています。彼らのユニークな美学は、グラフィックやブルータリズム建築に人工的な息吹を注入し、デジタル化が知覚や視覚に与える深い影響に疑問を投げかけています。彼らの最新プロジェクト「デジタルシフト(Digital Shift)」は、現実と仮想の境界線を曖昧にする没入型の展覧会という形をとっています。膨張する彫刻、インタラクティブなインスタレーション、メディアを融合したデジタルシフトは、現実と人間の経験の両方を補強し、鑑賞者の想像力を解き放ちます。 

本「デジタルシフト」展は、Vitality.Swissプログラムのひとつとして行われます。

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© Get it Studio
展示されている作品はすべて個性的です。どうやってそれぞれの個性を作っているのですか。
Get it Studio
イソギンチャクや熱帯植物、無脊椎動物などの自然からインスピレーションを得て、これらの作品を作りました。それに加えて、鮮やかな色彩を用いたり、反射金属や光沢のある表面、透明性などを利用したりして、作品の表面が目立つようにして見た目のインパクトを出すようにしました。
それぞれに名前もありますね!
Get it Studio
それぞれの作品にきちんとした名前を付けたかったので、古いラテン語の植物名からインスピレーションを得ました。名づけのために、チャットGPTを使ってアルファベットの各文字から始まる名前のリストを作りました。そのおかげで、アキリスポラ、フルグリス、ウムベルラ、ゼフィラントゥムといった面白い名前ができました。
いま大きな話題になっているAI(人工知能)ですが、お二人の仕事にどのような影響があると思いますか。ご自分でもAIを使って仕事をしていますか。
Get it Studio
デザイナーですので、創造のプロセスに対してAIが与える潜在的な影響について最初は心配していました。でも、AIを使って実験するうちに、本当に感心させられました。自分がどんなものを作りたいかという具体的な考えがあって、オリジナリティを追求するために努力するなら、他のデザインツールと同様に、AIはとても効果的だということがわかりました。スイスの雑誌「フェミナ」の表紙用にAI写真撮影をする機会がありましたが、イヴ・サンローランやクリスチャン・ディオール、ヴィヴィアン・ウェストウッドなどのアイコンと言えるファッションデザインを再構築しました。その結果、とても面白いことに、出来上がった画像を見た人の多くが、それが本物ではないということを信じなかったのです。ただし、その6つの画像を仕上げるのに30時間以上作業をし、自分たちの狙い通りの見せ方にするために1千以上の画像を作成し使用したことをお話しておきます。
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お二人の作品はデジタルと物質の融合です。デザインや創造性にとって、AR(拡張現実)の次の地平線はどこだと思いますか。商業的応用についてはどうでしょうか。
Get it Studio
Appleが最近発売した初のARヘッドセット、Vision Proにはとてもワクワクしています。AR技術自体は新しいものではありませんが、革新性についてのAppleの評判を考えると、この製品は大きな飛躍となる可能性があります。

展示会ではARフェイス・フィルターを作って、ギャラリーの前の道路から皆さんに試してもらえるようにしたところ、大きな注目が集まりました。さらに、ギャラリーの真ん中にAR作品を置いてタブレットで見てもらえるようにしたら、好反応が得られました。AppleのVision Proのような装置によって広がる可能性を考えてみてください。私たちのようなクリエイターにとって、可能性は無限です。

商業的応用については、ファッション業界はARから大いに恩恵を被っています。たとえば、Zero10.appを使えば、バーチャルな試着をして服を買うことができるので、実際に服を買うという行為の代替手段となります。こういったバーチャルな服はソーシャルメディア上でシェアできるので、ファストファッションの削減につながる可能性があります。ナイキはARアプリを使って閲覧できるデジタル・スニーカー販売用のプラットフォームを既に立ち上げています。さらに、ARはインテリアデザインや建築においても大きな可能性を秘めています。たとえば、私たちが親しくしている友人の中には、ヘッドセット装置を使ってバーチャルな内見をしてからマンションを買った人がいます。
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ユニクロ、ロレックス、アドビ、グーグルなど、お二人の顧客リストには驚かされます。このような一流企業と交流してクリエーションを行う過程について教えてください。
Get it Studio
こんな有名ブランドと仕事ができるなんて、自分たちは幸運だと思います。ブランド自体が既に非常に強力なので、そこを明示したプロモーションを求めないというのが、このような企業の特徴です。その代わり、私たちの唯一無二のスタイルや創造性を発揮して、企業のためにプロジェクトを開発するよう求められます。企業側はいつも私たちとの協働に熱心ですし、ほとんどの場合、視覚コンセプトの創作において私たちにはかなりの自由が与えられています。ただ、より大きな組織内の検証過程には時間がかかることがあるので、私たちは柔軟に、かつ忍耐強くなる必要があります。
今から5年後にあなた自身とあなたの仕事はどうなっていると思いますか。
Get it Sudio
5年以内に日本に移りたいと思っています。日本は私たちに刺激を与えてくれますし、日本の創作コミュニティーはとても親切で協力的です。もっと多くの展覧会に参加して、自分たちの芸術的構想を発展させ続けたいのです。私たちは商業的な作品に携わっていますが、意味のあるメッセージを伝えたり、人に注目されたりするビジュアルを創作することから充実感を得ています。

将来については、5年後にどこにいるか、はっきりとはわかりません。創作の世界におけるAIの役割について、もし1年前に聞かれていたら、答えの手がかりはなかったでしょう。技術は急速に進歩していますので、最新のトレンドをつかんでおくことを目指しています。ただし、うまくバランスを取って、新しいイノベーションの追及にとらわれ過ぎないようにすることも大切です。創造のプロセスそのものを大切にしたり楽しんだりする時間を取ることに価値があると私たちは信じています。

ストーリーのカバー:
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