2025年3月27日、在日スイス大使館は、『WIRED』日本版最新号「Quantumpedia—その先の量子コンピューター」の刊行を記念し、スイス大使公邸にてトークイベントを開催。本イベントでは、スイスが量子分野で果たす重要な役割と、日本との協力関係のさらなる発展に注目が集まりました。日本とスイスの関連企業・政府機関、研究者やクリエーターなど、量子分野の最前線で活躍するキープレイヤーたちが一堂に会し、未来を見据えた熱量の高い議論と交流が繰り広げられました。

量子技術への期待・戦略的投資
ロジェ・ドゥバッハ駐日スイス大使は、冒頭の挨拶で、量子技術が未来の繁栄と持続可能性において極めて重要な役割を果たすことを強調しました。また、スイスと日本が共有する価値観に触れ、量子研究の発展に向けた両国の強固なパートナーシップの重要性を改めて示しました。さらに、大使館が2025年の大阪・関西万博でスイスパビリオンと並走して掲げるテーマのひとつとして「量子」を掲げることを紹介。国連が定めた「国際量子科学技術年」でもある2025年が、スイスの量子分野への関与が一層注目される年になるとの見解を示しました。

『WIRED』 日本版 量子コンピューター特集号
続いて、『WIRED』日本版 編集長の松島 倫明氏より「Quantumpedia—その先の量子コンピューター」が紹介されました。量子コンピューターの可能性を分かりやすく読者に伝えるため、業界のバリューチェーン解説や、物理学者ミチオ・カク氏の見解、さらには芥川賞作家・円城塔氏による短編SF小説に至るまで、多岐にわたるアプローチを試みた一冊とのこと。また、本誌に掲載されたスイスの国際的な研究機関での取材訪問について、在日スイス大使館およびスイス連邦外務省 プレゼンス・スイスの協力に、感謝の意と今後のより一層の協力関係への期待が述べられました。

宇多田ヒカル「CERN探訪記」・スイス取材 バックストーリー
サイエンスジャーナリストで『WIRED』日本版コントリビューティングエディターの森旭彦氏、『WIRED』日本版アソシエイト・マネージング・エディターのアンスコム江莉奈氏が、スイスでのメディアツアーを対談形式で報告しました。アーティストの宇多田ヒカル氏がCERN(欧州原子核研究機構)を訪れた、その宇多田さんの好奇心あふれる様子が、印象的なエピソードと共に語られました。また本記事は、宇多田さんが口に出したという「(CERNを訪問することは)コーチェラのメインステージに立つよりうれしいかもしれません 」という言葉から抜粋されたセンセーショナルな見出しと共にWIRED USのデジタル版にも掲載され、グローバルな展開を見せています。
さらにお二人の対談は、ジュネーブの科学外交財団「Geneva Science and Diplomacy Anticipator Foundation(GESDA)」が推進する「Open Quantum Institute(OQI)」への訪問や、これまでに『WIRED』日本版が参加したスイスメディアトリップでの取材などにも及び、量子技術の実用化と社会実装に向けたスイスのリーダーシップが語られました。
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スイスの量子エコシステム:戦略的リーダーシップと地域ごとの特色
次に登壇したスイス大使館科学技術部長の鈴木恭子は、スイスの量子エコシステムについてプレゼンテーションを行いました。
紹介されたスイスの量子エコシステムの主な特徴は次の3点です
1. 国家戦略、学術的卓越性、産学連携のダイナミズムの組み合わせ
→量子研究の分野でスイスが世界をリードできる理由
2023年に発足したスイス政府が主導する国家プログラム「Swiss Quantum Initiative(スイス量子イニシアティブ)」の存在
→量子技術のバリューチェーン全体におけるスイスの競争力を強化することを目的。政府の支援を受けつつも、専門家が主導する独自の構造を持つ「Swiss Quantum Commission(スイス量子委員会)」によって運営される
2. 地域ごとの特色ある研究拠点の存在
- ジュネーブ・ローザンヌ: CERN、スイス連邦工科大学ローザンヌ(EPFL)、Open Quantum Instituteを中心とした国際協力のハブ。
- バーゼル: 製薬業界の伝統を保ちつつ、「Quantum Basel」や「QAI Ventures」を擁するスタートアップ等の量子関連企業の拠点に。
- チューリヒ: スイス連邦工科大学チューリヒ(ETH Zurich)とポール・シェラー研究所(PSI)が量子コンピューティング研究の中核を担う。大規模量子コンピューターの実現に向けた技術・科学的課題に取り組む。
3. 高いスイスのパートナーシップ力
Swissnex による「Project Quantum」や、2024年にスイス大使館科学部が理研量子コンピュータ研究センター (RQC)と共同開催した「第1回スイス・日本量子シンポジウム」など 。
さらに2025年大阪・関西万博でのスイスパビリオンでも量子技術が大きく取り上げられること、そして、今後の量子技術分野の発展に向けたスイスと日本との協力へのさらなる期待が述べられました。
在日スイス大使館科学技術部の活動についてはこちら、スイスパビリオンについてはこちら
サステナブルな旅をーSwisstainable(スイステナブル)
スイスの各地域の行き来を可能にするスイストラベルシステム。続いて、サステナブルなそのスイスの旅のシステムをスイス政府観光局メディアマネージャーの 押尾雅代が美しい映像と共に紹介しました。スイスの観光産業全体にサステナビリティを浸透させることを目的とした、「Swisstainable(スイステナブル)」キャンペーンが推奨する、地産地消の促進や環境に優しい移動手段に、参加者は次のスイスへの旅をそれぞれに思い描いていたようでした。
スイステナブルについてはこちら
高まるコラボレーションへの期待
その後のレセプションの場では、日本とスイスの関連企業・政府機関、研究者やクリエーターなど、量子分野の最前線で活躍するキープレイヤーたちが、未来を見据えた熱量の高い議論と交流を繰り広げました。今後のスイスと日本との量子分野での協力に、どうぞご期待ください!

PHOTO CREDIT: AZUSA YAMAGUCHI
ストーリーのカバー:
AZUSA YAMAGUCHI